ソフト・ロボティクス入門2:ロボットをやわらかくする方法

単純に考えると、やわらかいロボットを作ろうと思ったら、やわらかい素材を使えばよい。
アルミ合金やスチールの代わりに、ゴムやスポンジを使えば、ロボットはやわらかくなる。

そのときに何が起こるか?
すべての素材をやわらかくしたら、ロボットは体重を支えられなくなってグンニャリするだろうし、歯車やねじは役に立たなくなるだろう。素材を変えたら、設計も変えなければいけないのだ。

ロボットを、なぜやわらかくしたいのか?という疑問がすぐ思い浮かぶ。

じっと手を見る。指の腹や手のひらはやわらかい。爪は手のひら側にはついていない。
やわらかさの機能のひとつは、接触したモノの形にならって変形し、なじむことだ。
そうすると、接触面積が広がって力が分散するから壊れやすいものが持てる。
また、面で密着し、包み込むから安定する。

例を挙げよう。
ハーバード大学(Harvard University)のWhitesides Research Groupで開発されたヒトデ(starfish)型グリッパー[Ilievski et al., 2011]の、卵をつかみあげるデモだ。

Starfish Gripper [Ilievski et al., 2011]
Starfish Gripper [Ilievski et al., 2011]
このグリッパーはシリコーンラバー製で、内部にたくさんの空気室がある。開発者はこれをPneuNetsと呼んでいる。チューブを通じて空気を送り込むと、それぞれの空気室が膨張して、ふくらんだ側を外にして曲がる。弾力があるので、なにかにぶつかるまでヒトデの腕は曲がり続ける、それでいろいろな形にフィットするのだ。

ただし、このヒトデ型グリッパーは、やわらかいシリコーンラバーで作られたふにゃふにゃしたものなので、力は出ない。軽いものしか持ち上げることはできない。

次の例は、もっと人の手や指に近い。
大阪大学の細田研究室で開発されたバイオニック・ハンド[Takamuku et al., 2008]は、やわらかい肉で覆われたヒト型のロボット・ハンドだ。内部の骨格を、人の腱に似せたケーブルで引くことで指を曲げる。

Bionic Hand
Bionic Hand [Takamuku et al., 2008]
バイオニック・ハンドのおもしろいところは、やわらかいポリウレタンで作られた皮膚に、ひずみを測るセンサが埋め込まれていることだ。これは、人の皮膚と触覚によく似ている。
このロボット・ハンドを使った研究では、いろいろな形のものをハンドにつかませて、繰り返し握り込むことで、持っているものとハンドがなじみ、センサデータから形の識別がしやすくなったことが報告されている。

最後の例は、ヘビ型ロボットで知られる東京工業大学の広瀬茂男博士が開発したソフトグリッパーである([Hirose and Umetani, 1978])。このグリッパーは、たくさんのリンクを連結した構造をもっている。隣同士のリンクはワイヤとプーリーで連動するようになっているので、いろいろな形になじむ。しかも、根元近くは大きな力で、先に行くほど弱い力で曲がるような設計になっている。そうすると、根元から先まで、どこでも接触力が均等になる。

いくつかサイズや駆動方法が異なるグリッパーが作られていて、こちらのWebサイトでは、大型のグリッパーが人をつかむ動画などを見ることができる。

Soft Gripper
Soft Gripper (「東工大名誉教授 広瀬茂男 ロボット・ギャラリー」より)

このソフトグリッパーは、よく考えると、やわらかい素材を使って作られたロボットではない。
硬い部品をたくさんつないだことで、やわらかい動きができるようになっている。

自転車のチェーンみたいに、無数の要素がつながって自由に動けるとき、やわらかさが現れる。
これをもっと小さくして、分子レベルのチェーンを考えたら、それはゴムやプラスチックの構造になる。やわらかさとは、動く箇所が無数にあるということなのだ。

………

今回は、やわらかさの機能として「なじみ」を取り上げた。
やわらかいロボットの作り方もいろいろある。紹介したのは、まるごとやわらかく作った例、やわらかいもので覆った例、そして硬い部品をつなげてやわらかくした例だ。
次回以降はほかの素材や機能について解説したい。

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