物理的なやわらかさ、感性的なやわらかさ
ソフト・ロボティクス(soft robotics)に含まれている言葉、
「ソフト」=「やわらかい」とはなにか、もっと詳しく考えてみる。
「豆腐はやわらかい」「人間の頬はやわらかい」
素直に考えると、やわらかさというのは物の性質のひとつだ。
やわらかさは見た目だけではわからないから、直接触れたり動かしてみたりしたときに現れる性質だろうと予想できる。
「やわらかい光」「やわらかな声」
目に見えないものを「やわらかい」ということがある。この場合は「穏やかな」「心地よい」「優しい」といった意味になる。形のある物体としてのロボットには使われない。
やわらかさの中身
やわらかさ(softness)という性質を、分解してみよう。
やわらかさを知る簡単な方法は直接触れてみることだ、触ったとき簡単に形が変わったら、やわらかいことがわかる。つまり「やわらかさ」は「変形しやすい(deformable)」ことである。
変形にも方向がある。押す方向だったら、つぶしやすい(squishy)という性質、引く方向だったら伸びやすい(stretchy, stretchable)という性質がある。例えば、豆腐はすぐつぶれるが、伸びない。ちなみにsquishyもstretchyも口語的な単語で、「うにょーんとした」に近い語感があるので学術論文には使いにくいだろう。圧縮性の(compressible)とか、伸張性の(extensible)といった単語もある。
ところで、変形という言葉には、手応えが入っていない。人肌のやわらかさと、粘土のやわらかさは違う。ゴム(rubber)には弾性がある(elastic)ので形は元に戻る。一方、粘土は可塑性がある(plastic)けれど弾性がないので形は元に戻らない。
たくさんの表現
やわらかさを表現する言葉はまだまだある。
“Soft”並みに柔軟性を広く表す言葉は”flexible”だ。物理的には曲がりやすいという意味だが、「思いがけない出来事への柔軟な対応」という風にも使うことができる。
コンプライアンス(compliance)も、ロボティクスでは柔軟性を意味する言葉だ。例えば、ロボットが部屋の中を動き回るとき、机や人にぶつかっても安全なように、やわらかく反応する必要がある。そういったコントロールをコンプライアンス制御(compliance control)という。
法令遵守の意味の「コンプライアンス」はルールに従うことだが、この場合は物理的な力に従うということだ。
ほかにも、打ち伸ばせる(malleable)や、曲げやすい(pliable)などの言葉もある。
もっと簡単にやわらかさを表すには、「〜っぽい」と具体的なものに例える言い方もある。バネっぽい(springy)とか、スポンジっぽい(spongy)などだ。こういった言葉には、弾力や、多孔質な素材の情報も含まれる。
今回は言葉による表現の話。
いずれは、物理的・定量的にやわらかさを表現する話もしたい。
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