新・ソフトロボティクス入門:ボンレスロボット

骨格

人間のかたい骨(bone)は、身体を支える骨格(skeletal structure)である。
カニやカブトムシであれば、かたい殻(shell)が骨格になっている。

イモムシやミミズは骨がないボンレス(bone-less)生物だ。それなのに、背骨をもつヘビと同じように、頭をもたげたり這いまわったりできるのはなぜだろう?

それは、張りのあるやわらかい体が、一種の骨格として働くからだ。
これをロボットに使えないだろうか?

動物の触手や、幼虫に見られる、やわらかい骨格を見ていこう。
(イモムシが嫌いな人は見ないでおこう)

イモムシとミミズの液体包骨格

イモムシ(caterpillar)を触ると、プリプリと張りがある。イボ足で体を支えながら、頭をもたげることができる。シャクガの幼虫は小枝に擬態するのがうまい。骨がなくてもそれくらい体をピンと保てるのである。

イモムシやミミズのやわらかい骨格を、液体包骨格(hydrostatic skeleton, hydroskeleton)という。液体包骨格は、体液の圧力で袋状の体壁に張りを与え、体を支える。なお、「水力学的骨格」という訳語もあるが、水力学(hydrodynamics)は流れの力学なので意味が広すぎるし、わかりにくいので新しい訳語を当てた。

hydrostat_earthworm
ミミズの液体包骨格

液体包骨格の役割は、体を支えるだけではない。変形にも使われる。

水風船を握りつぶしたとしよう。スポンジとはちがって、水の詰まった水風船の体積は変形しても一定だ。押された分、どこかが膨らむはずである。

このように圧力が伝わることは、パスカルの原理として知られている。空気とちがって、水が非圧縮性であることが鍵になる。

ミミズやイモムシの体壁は、筋肉で裏打ちされている。筋肉の収縮による体の変形は、流体静力学的(hydrostatic)なつり合いを変化させ、動きを作る。

Goldfuss_caterpillar_muscles
Muscles of the Caterpillar by Georg August Goldfuss from “The Naturalist Atlas”

イモムシの研究を行なっているタフツ大学のBarry Trimmer博士らは、イモムシ型ロボットも製作している。

イモムシ型の幼虫(larva)は、とにかく食べて食べて急激に体を大きくしていく。水風船のようなやわらかい体は、急激な成長に向いているのだろう。昆虫は、体のかたい成虫になると、もう成長しない。

一方、ミミズは、体節の太さと長さを順序よく変える「ぜん動運動」で土の中を進む。液体包骨格は、この動きを作るのに向いている。体壁にある環状の筋肉が働くと、体節は細く絞られる。直径が細くなったのだから、体積を一定に保つ力が働き、必然的に体節は伸びる。筋肉は縮む力しか発揮できないから、液体の力で伸びたり膨らんだりできると都合が良い。

ゾウとタコの筋肉包骨格

動物の触手(tentacle)に目を向けてみよう。タコの腕(octopus arm)やゾウの鼻(elephant trunk)などだ。関節のあるロボットアームとはずいぶんちがって、自由自在に変形する。ゾウの鼻は、ものを先端でつかんだり、巻きついたり、便利そうだ。

触手というのは、骨のない、変形する突起物だ。胴体は別にあってそこから生えているので、イモムシやミミズとちがい、内臓を内蔵する必要がない。つまり、筋肉の塊でよい。

ゾウの鼻は筋肉の束である。3次元的な変形ができるように、縦走筋、斜走筋、放射筋など、色々な方向に筋繊維が走っている。

このような、筋肉の束でできたやわらかい骨格を、筋肉包骨格(muscular hydrostat)という。筋肉の組成は大半が水なので、これは液体包骨格の一種といえる。

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ゾウの鼻の筋肉包骨格

タコ足やゾウの鼻以外にも、舌(tongue)は身近な筋肉包骨格である。スライスする前の牛タンを見たことがあれば、それがゾウの鼻によく似ていることがわかるだろう。

舌は筋肉の塊だ。普通の筋肉は、骨を動かすためにその両端が骨にくっついている。舌の筋肉は独立していて、骨を動かすためではなく、自分自身の変形のために働く。舌には縦横斜めに筋肉が走っていて、それのおかげで舌を平たくしたり、細くしたりできる。

筋肉包骨格に近い形で、伸長型のMcKibben空気圧人工筋を束ねて作られた連続アームにOctArmがある。軍用の移動ロボットTALONに搭載した実験では、野外でさまざまなタスクをこなしている。

交尾器

骨がなくて、かたくなる器官として、ペニスについて解説しないわけにはいかない。
ペニスは主に雄の交尾器(intromittent organ)をいう。

人間にはないが、実は、霊長類をふくめ哺乳類の多くは陰茎骨(baculum)と呼ばれる骨をもつ。また、ウシやクジラの仲間は、はじめからかたい繊維質のペニスを持つ。

興味深いのは、血液やリンパ液で膨張して必要な時だけかたくなるタイプの挿入器である。そのような、かたさや大きさが変わる膨張型ペニス(inflatable penis/vascular penis)をもっている動物には、ヒトの他に、ワニやカメ、カモなどがいる。

膨張型ペニスも液体包骨格の一種である。

膜が丈夫でないと、液体包骨格のかたさは保たれない。線虫やヒトデの管足など、多くの液体包骨格の膜は、長軸方向に対して斜めの、交差するらせん状の繊維組織で補強されていることが知られていた。

釣竿やゴルフクラブなどに使われるカーボン繊維強化樹脂(CFRP)のパイプは、繊維の配向角度を変えて何層も重ねることで強度を出すので、似た構造を持っている。

生物学者のDiane Kelly博士(マサチューセッツ大学)は、アルマジロやカメのペニス膜を補強するコラーゲン線維の配向を調べ、らせん状の繊維角度ではないことを発見した。それは、軸方向と円周方向(長軸に対して0°と90°)の重なりであった。

この話はTEDMED 2012 “What we didn’t know about penis anatomy”で語られている。

生物学者のWilliam Kier博士(ノースカロライナ大学)は、幅広い生物の液体包骨格を調べてまとめている。

hydrostat_fiber-angle.jpg
ペニスに見られる軸方向・直角繊維配向(左)と、交差らせん状繊維配向(右)[Kier, 2012]
膜が右巻き左巻きの斜め繊維で補強された液体包骨格は長さや径を変えられ、ゆるやかに曲がる。一方、膜が水平と直角の繊維で補強された液体包骨格は長さや径を変えず、曲がりにくい。

交差する斜めの繊維で補強された構造は、足や胴体のような、変形する構造に向いている。このような繊維強化は、空気圧人工筋肉や連続アームに使われている。

まとめ

骨がなくても、ピンと張りつめた膜によって、「かたい」構造を作れることがわかってきた。しかも、内圧の変化をうまく変形につなげると、這ったり穴を掘ったりすることができるのである。


文責:新山龍馬(ロボット博士)

(題字・イラストレーション:大津萌乃)

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