大学教員≠研究者
「研究者」の意味が、職業ではなく「研究をする者」という生き様だとしましょう。研究者と大学教員は同じではありません。大学教員とは、団体職員として給料をもらいながら研究者をやっている人ということになります。大学教員は、研究のほかになにをやっているのでしょうか?
タイトルに「1日」と書きましたが、1年間を通してなにをやっているのか、大学教員のお仕事を次のように分類しました。分野は工学系、若手教員を想定します。
- 研究室運営のお仕事
- 研究費獲得のお仕事
- 教育のお仕事
- 大学運営のお仕事
- 入学・卒業に関するお仕事
- 学会のお仕事
- その他
いま海外でpostdocをやっている人は、日本の大学でfaculty memberになったときに、どんな仕事をするのか興味があると思います。あるいは、いま日本で助教の人は、近いようで遠い教授陣の仕事が見えてくるかもしれません。
余談ですが、associate professorと英訳することもある日本の大学の「助教」、実態は先生(faculty member)ではなく、研究員(research associate)に近いです。というのも、助教は専攻・学科の運営や人事に関する会議のメンバーではないからです。先生なのは「講師・准教授・教授」です。もちろん、少数の独立系の助教ポストや、テニュアトラック助教もありますが。
研究室運営のお仕事
研究会
大半のラボは週1回、メンバー全員でやってます。研究室によりますが、2〜3時間でしょうか。学生のときからなじみ深いので想像しやすいでしょう。教員がなにを言っても学生は深刻に、真に受けます。注意しましょう。あるいは、朝令暮改だとなにを言ってもスルーされます。
全体ミーティングのほか、研究室内で同じ研究プロジェクトに関わる少人数チームでのミーティングもあります。1〜2時間?
共同研究ミーティング
他の研究室や企業と進める共同研究プロジェクトのミーティングです。
研究相談・論文添削
こんな研究したいんです!とか、論文の下書き見てください!という学生からの相談は大歓迎です。楽しくないのは、呼び出し面談で、このままじゃ卒業が危ういよ、とか、大学に来てね、とかですね。
対外活動
オンラインの広報として研究室webサイトの更新運営が、オフラインの広報としてオープンラボがあります。学生向けの研究紹介は大事です。イベントの一環で、一般むけの研究室公開もあります。大きな研究成果ではプレスリリースを行います。
年に1回、卒業生を集めて同窓会もやります。学生にとっては就活のコネを作るチャンス。
学生の選抜
研究室配属を希望する学生の受け入れ可否を検討します。まずは筆記試験に受からないとどうにもできませんが。国外からのメール問い合わせも多いです。書き出しが「Dear Professor」と不特定で、ラボの研究内容に触れずに自分語りのメールは読まれません。
研究費獲得のお仕事
申請
競争的資金を得るため、研究提案を書いて応募します。申請書の執筆には丸1週間ほどかかります。文部科学省と日本学術振興会が募集する「科研費」が代表的なもので、他の省庁や財団の助成事業などもあります。
報告
採択された競争的資金をどのように使い、どのような成果が出たのか毎年度末に報告書を提出します。分量は研究費の種類や、最終年度かどうかによって違います。
共同研究・委託研究
企業からの研究の依頼を検討したり、進めたい研究の共同研究先を探したりします。
教育のお仕事
講義
想像しやすい仕事です。学部の講義と、大学院の講義があります。ひとり何コマ担当するかは大学次第ですが、週2〜3コマでしょうか。私大のほうが多いです。講義時間は90分間くらいですが、講義前の準備や、講義後の成績評価に何倍も時間がかかります。
演習
講義は座学、演習は学生が実験をしたりプログラミングをしたりする実践です。内容を解説し、学生TAと一緒に手伝います。1回3〜4時間×担当回数。
大学運営のお仕事
専攻・学科会議
会議です。専攻・学科の教員が集まって、他の会議の報告、カリキュラム検討、学生の研究室配属、休学・退学や学生受け入れの承認、文科省や理事会や研究科からの質問への回答、イベント日程の周知などを行います。組織によって、多いと週1、少ないと月1で、1〜2時間くらい?
教授会
会議です。複数の専攻・学科を擁する研究科という大きな単位で所属教員が集まります。学内の情勢報告や、大学規則改定の周知、人事審議などが行われます。月1で、1時間くらい?
入学・卒業に関するお仕事
入試問題の作成・採点
学部の入試問題や、大学院の入試問題、誰が作って採点していると思いますか。教員です。出題は、問題を解くよりも大変です。誤字や解けない問題があると大問題なので、チェックも二重三重で手間がかかります。不正を防ぐため、極秘で進めます。
試験監督
試験室をうろうろしてる人は誰でしょうか。教員です。全学のセンター試験・2次試験と、専攻ごとの大学院入試があります。少なくとも丸1日間拘束されます。大学院入試では面接も行います。
卒論・修論試問
卒業予定の学生の研究発表を聞いて論文の評価をします。
博士審査
指名されれば審査委員をやります。予備審査と本審査の2回、5人以上の審査委員が招集されます。もっとも厳しい学位認定のプロセスです。5人の先生が同時に集まれる日時の調整が難しい。
研究者コミュニティのお仕事
査読
査読(論文を読んで審査する)の依頼は頻繁にあります。学術誌や国際会議に投稿された論文を、受理(accept)するか却下(reject)するかスコアをつけ、無記名でコメントを書きます。論文1本あたり2〜3時間はかかります。無報酬です。コミュニティの中で、自主的に論文の質を担保しようとするアカデミアの根幹的な仕組みです。
査読は、最先端の未発表論文を目にすることができ、研究を批評する能力が試される機会で、やりがいがあります。とはいえ、未審査論文ばかりなので玉石混交で、まじめに読んで損した、と思うことも少なくないです。依頼数は分野にもよるでしょう。私は月2〜3本引き受けています。
委員
学会の役割は、論文誌の発行、学術講演会やセミナーの企画と主催、賞の授与などいろいろあり、学会員が分担して運営しています。事務局員や理事を除き、無報酬です。月1くらいで集まります。かけ持ちすれば増えます。
その他のお仕事
推薦書
学生から、奨学金申請や留学のための、推薦状・推薦所見の依頼が定期的にあります。履歴書や自己推薦書など、書くネタになる資料を一緒にもらう。大学の所属は重要だけど研究室の先生なんて役立たずだと思ってバカにしてると、後で頼みにくくなります。意外と死活問題。
取材対応
新聞社や雑誌出版社、テレビ番組制作会社からの問い合わせや取材に答えます。暇なときか、広報になるのなら。
まとめ
大学教員の、研究以外の仕事を列挙しました。
特に国立大学教員の仕事の特徴は、がんばっても給与に全く影響しないことです。裁量労働制で残業代は基本出ません。研究費を獲得して研究プロジェクトをたくさん立ち上げても、手当はありません。査読や学会の委員は無給のボランティアです。
教員型研究者は、研究室運営を通じて研究を進めることはできますが、自ら研究するのは難しいのが現状でしょう。しかし、無所属の研究者よりも潤沢な研究費を獲得するチャンスがあります。
教員の仕事には、講義・演習や学生の研究指導の他にも、いろいろあることが伝われば幸いです。忙しい。